吾亦紅の向こう

2004年10月08日
花屋の店先にワレモコウが並ぶと必ず思いおこす出来事がある



吾亦紅の向こう

店内の花を手入れしていると、

車椅子に乗った老婆が店先で、

何かをじっと眺めていた。


『いらっしゃいませ、

お気に入りのお花は

ありましたか?』

かがみながら尋ねた私に、

老婆からの返事は無かった。

付き添いの婦人は、

車椅子の後でただ微笑んでいる。

老婆の視線の先には、

くすんだ紅の吾亦紅があった。


「あららっ、一本折れちゃってる、

たまに折れてることがあるんですよ…」

小枝を一本こっそり折って、

座ったままの老婆に渡した。

しっかり握った吾亦紅を

老婆はじっと見つめている。

そのまま何も言わず

ただただじっとしている。

見つめる視線はいつしか遠く

吾亦紅のくすんだ紅の

ずっと向こうを見つめている。


付き添いの婦人は軽く会釈し

車椅子は動き出した。

その時はじめて老婆の顔に

かすかな笑みが見えた気がした。

たしかに見えた。そんな気がした。

吾亦紅のくすんだ紅の

ずっと向こうにどこかを見ていた。

ずっと向こうのどこかを見ていた。

ずっと昔のいつかを見ていた。

たしかに見ていた。そんな気がした。


吾亦紅

忘れられない記憶のひとつである。
花屋にワレモコウが並ぶこの季節、毎年ふと思い出す。
ワレモコウのくすんだ赤色を見るといつも思い出す出来事である…
posted at 2004/10/08 22:43 | Comment(1) | TrackBack(0) | 風景雑感
この記事へのコメント
ほんのりさした 紅の色
遠い昔の紅の色
初めてさした紅筆は
今も鏡台の奥で眠る

TBありがとうございます。
拙い言葉ですが、なんだか浮かびましたので受け取ってやってくださいませ。
Posted by かれん at 2004年10月14日 21:09
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