短篇改題「バス停」

2005年07月15日
まぁ結局は修行なのだから、一つの出来上がりに拘ってもしょうがない…そう思えてきたので、一度完成させたはずの原稿ファイルを引っ張り出し、タイトルからしてもう一度考え直してみた。

以下短篇「彼岸のバス停」を「バス停」と改題し、冒頭と結末に若干手を加え書き直したものである。

短篇に興味のない方にはもちろん、興味のある方と言えどもあまりにどうでもよい記事である。ご遠慮頂いた方がよいかも知れない。
 

  バス停

 一年振りの改札を出ると駅前広場は暖かかった。五歳の息子は上着を脱ぎ捨て、バス停のベンチに駆け出した。

 ベンチには先客がいた。まばゆい麻の上下に身を包み杖の柄を両手で握る一人の紳士。その後姿にふと花柄の木彫りのループタイが目に浮かぶ。
「よく覚えてたなぁ、このベンチ」
「うん」
 去年と同じベンチに座る息子の頭を撫でながら、そっと紳士の胸元を覗く。実直に天辺まで締められた花柄のタイが懐かしい。何十年ぶりだろう。

 私はポケットからラミネートを出して子供に渡した。私のお手製ゲーム機が彼のお気に入りである。画面も動かなければ音もしないその極薄ゲーム機を、息子はピコピコ言いながら操作しはじめた。その奇妙なおもちゃと彼の夢中な様に、麻の紳士が口を開いた。
「坊や、いいの持ってるねぇ」
 息子は返事もせずに熱中している。
「最新型のゲーム機をあんまり欲しがるもんでね、広告を切り抜いてラミネートしてやったんですよ。何でも彼んでも風呂に持ち込んじまうんで、これなら濡れても大丈夫ってね」
「ほー、お父さん考えましたな。よかったな坊や」
 時間が少しだけ止まったかのように、麻の紳士は息子の姿を眺め続けた。
「坊や、幾つだい?」
「五歳っ」
「そうか、五歳かぁ。そりゃよかった」
 顔も上げず答える息子に、紳士は満足そうな顔で頷いた。

 バスは思ったより早かった。
「お先に失礼しますね。バス、来ましたので――」
 ゲームに夢中の息子を急かした。
「おじいちゃんち行きのバス来たぞ」
「バス? 乗るの?」
「そうだよ。だからおじさんに挨拶しなさい」
「ばいばい、またね」
 紳士に手を振る息子に、ふと私は思い立ち彼に耳打ちをした。少し渋る小さな頭にもう一度耳打ちすると、かなり躊躇いながら麻の紳士に駆け寄った。
「おじさん、これあげる」
 紳士はラミネートの薄っぺらなゲーム機を手に戸惑いながら頭を下げた。私は息子を抱き上げながら紳士に声を掛けた。
「それなら雨に濡れても大丈夫ですよ」

 最後部の席に息子を座らせ振り返ると、紳士のバスも後に止まっていた。片手には花束が握られている。紳士はバスにゆっくりと乗り込んだ。気が付くと息子も後のバスを見ている。

 バスは走り出してもエアコンをつけてくれず、少し蒸し暑かった。急に思い出したのか息子が前を向いて言った。
「ねえ、ほんとに買ってくれるの?」
「ああ、ほんとだよ」
 もう一度振り返ると、後を走っていた寺町行きのバスはいつのまにか消えている。

 暑さ寒さも彼岸までか……。まったくうまく言ったものだ。

元の原稿「彼岸のバス停」を、サイト「短篇」に投稿した。で、予選にて一票だけ頂くことができた。有難いことである。励みとしては十分なのだ。その一票、謹んで頂いた。

たった一票ではあるがそれがどんな一票だろうと、たった一票、たかが一票、だがやはりされどの一票なのである。



ところで、短篇小説に興味のある方ならば、読むのが好きな方でも、書くのが好きな方でも、ちょっとだけでも覗いて頂きたい。無料で新鮮でユニークな短篇小説が、たっぷりと楽しめるサイトである。

サイト「短篇」⇒リンク
posted at 2005/07/15 02:42 | Comment(0) | TrackBack(0) | 語部修行
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