作家がダイジェストするモノ

2005年07月01日
ダイジェストに関する記事を書き終えたばかりなのに、タマたま取り上げた番組はマタまたダイジェスト番組だった。

名作平積み大作戦―LET'S READ BOOKS!―
〜名前は知っていても読んだことが無い文学の名作が今、よみがえる!〜
“若者コトバ”が気になる人にオススメの名作
読書量1日1冊のプレゼンター
高橋源一郎オススメの名作は太宰治…『女生徒』
司会…中條誠子アナ/NHKサイト⇒リンク

端折って欲しい人間は私だけではないらしい。世の中よほどせっかちになったか、よほど理解力が低下したかのどちらかだろう。てか、自分に限ってはどちらも否定できなかった。
 
番組は男性太宰治が、女性の微妙な心理を描いたことに着目する。

女性の細やかな心理を、作家とはいえ一人の男性が目ざとく抽出していることすら驚きなのに、“女子”から“女性”への微細な心の変化さえ見透かし主人公の女生徒に語らせた太宰治の観察力に、会場の女性たちは唖然とする。

女生徒 太宰 治
…。金魚をいじったあとの、あのたまらない生臭さが、自分のからだ一ぱいにしみついているようで、洗っても、洗っても、落ちないようで、こうして一日一日、自分も雌の体臭を発散させるようになって行くのかと思えば、また、思い当ることもあるので、いっそこのまま、少女のままで死にたくなる。…。

by青空文庫⇒リンク

その文章を書き記した時の太宰治に恵まれていたのは、鋭い観察力なのか、豊かな想像力なのか。それとも、彼が持ち合わせたかも知れない“女性としての心”の真実の声なのか、結局は作家としての単なる職人技なのか。なんてことは何も考えず、私は番組をそのまま観ながら、二人の女性作家を想い浮かべた。おかげで後半の後攻めプレゼンター大槻ケンヂの「ハックルベリ・フィンの冒険」がまったく頭に入らなかった。



女性作家の一人は、台湾の土となった向田邦子である。

かつて放送脚本から興味を持ち少しだけかじった向田邦子は、「女生徒」と同世代で、厳格な父親の元で成長する長女の想いをシナリオに描き出していた。

ちゃぶ台を囲み家族全員が居並ぶ朝食の場。長女は生卵の中に一筋の鮮血を見つける。みなの視線を気にしながら小さくもはっきりと主張する赤い印をそっと隠す長女。彼女は何事もなかったかのように食事を続ける。

読んだ私もさほど変わらぬ世代だったが、ちゃぶ台に居合わせた男兄弟のようなバツの悪さを感じた。ふーん、そうなのかぁ…と、ある意味女性の二つのいやらしさを男の子が真面目に学んだシーンである。ふーん、そういうものなのかぁ…と。

二人目の女性作家はよしもとばななである。

三月の中頃だったか、彼女が出演したトップランナーを再放送していた。一人の作家としてよりも、単なる作家の一人として製作現場の裏話に興味を抱いた私は、ビデオに録画し何度も何度も観ていた。

番組の後半、締めの挨拶をする本上まなみに彼女は将来への期待感を口にする。

「おばあさんになるまで頑張ります。89歳の気持ちは89歳にならないと書けないからホント。書きたいっ!とか思って。」

私はトップランナーのこの回を観て以来、ずっとこの言葉が引っ掛っていた。お陰で、まったく縁の無い「平積み大作戦」なんて番組にも引っ掛ってしまったのだ。この記事の本題もこの言葉を耳にした際の違和感である。作家がこんなことを言っていいものなのか。

89歳のおばあちゃんの気持ちを、19歳の男性が描いてしまう職人技こそが作家たる所以だと想っていたのに、89歳まで待たなければ本当に書けないのか。年齢どころか、そんなことを言っては作家は異性の主人公さえ描けないではないか。生真面目そうな雰囲気に興味を抱きはじめた矢先ゆえ、彼女のその言葉が信じられなかった。

だがビデオを見直し、その冒頭で生真面目な性格を自己分析している彼女をあらためて見ていると、その生真面目さが源と思えてきた。ふむ、それは書けないのではなく、現在の自分が想像して書くだろう89歳の偽りの想いと、89歳になった時に自分が書くだろう89歳の真の想いを今すでに比較し、まだ見ぬその違いに満足できない自分を自覚しているということらしい。

ダイジェスト番組が紹介した太宰治の想像力より、この女性の生真面目さが感じられる作品が読みたくなってきた。



ちなみに、NHKの関連サイトではダイジェスト番組をさらにダイジェストしていた。今までの放送とオススメを要約している。

プレゼエンターオススメ一覧
俳優相島一之…「蒲団」/タレント作家飯星景子…「細雪」/医師大鐘稔彦…「赤ひげ診療譚」/ミュージシャン大槻ケンヂ…「ハックルベリ・フィンの冒険」/タレント大桃美代子…「潮騒」/書評家翻訳家大森望…「高慢と偏見」/作家荻野アンナ…「居酒屋」/作家奥泉光…「ガリヴァー旅行記」/大学教授鹿島…「危険な関係」/コメディアンきたろう…「歯車」/作家高橋源一郎…「友情」「女生徒」/落語家立川談四楼…「怒りの葡萄」/作家立松和平…「ノラや」/映画監督鶴田法男…「ねじの回転」/書評家 豊崎由美…「金色夜叉」「放浪記」/フォークシンガーなぎら健壱…「不如帰」/タレント松尾貴史…「赤と黒」「パノラマ島奇談」「ロビンソン・クルーソー」/映画監督山本晋也…「華麗なギャツビー」「存在の耐えられない軽さ」/タレントリサ・ステッグマイヤー…「ピエールとリュース」

読んだ作品が一冊も無いってのもまことに情けない話ではあるが、まったくみんな本好きだねぇ、羨ましいよまったく。

そういえばトップランナーで紹介していたよしもと氏の短篇集「デッドエンドの思い出」の話が驚きだった。ある頃、彼女は短篇を一日一作品書き続けたという。

まったく、気楽なブログを投稿数一日一記事一年間すら続けられない人間が読書量一日一冊の高橋源一郎に呆然としてしまうのに、そのまた向こう側では執筆量一日一短篇とは。やはりOCDの薬を処方してもらったほうが良さそうである。せめてカウンセリングだけでも行ってみるかな。ってか、OCD処方薬を本屋で売ったら売り上げ伸びるかもな。
posted at 2005/07/01 10:11 | Comment(0) | TrackBack(0) | 放送批評
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