フィルとマイクの無限ダーツ

2005年05月30日
そのテープに刻まれた時間はいつしか13年も過去となっているが、果てしなく緊張感の続く展開は何度見ても飽きない。

EMBASSY WORLD PROFESSIONAL DARTS CHAMPIONSHIP
 THE FINAL 1992 ≪Phil Taylor vs Mike Gregory

10thセット4thレッグ。マイク・グレゴリーの3本目がブルに刺さり161オフ12ダーツでフィニッシュを決める。

Phil Taylor 4-5 Mike Gregory
pts left 2-1 pts left
20,60,_5 85 416 3 20,20,20 60 441
60,60,20 140 276 6 20,60,60 140 301
20,20,60 100 176 9 60,60,20 140 161
      12 60,51,50 B
      15      
42nd leg game Mike Gregory 12darts

その瞬間マイクはタイトルに手をかけた。

3レッグ先取りで1セット、そのセットを6セット先取りで勝敗が決まるベストオブイレブン。すでに5セット取っているマイクが、ネクストレッグで3レッグ目を取れば彼の初優勝が決まる。



私の大切なVTRの中でも最も大切なこの一本のビデオテープは、ダーツ界の“一つの頂点”が決定するまでのゲームを克明に記録している。世界のトップがそこに集い、最高の技を見せつけてくれる一本のトーナメントファイナルビデオ。久しぶりに発掘したこのテープを、最終セット直前からログだけで再現してみる。



“ファイナル”の43rdレッグ、そしてこのセットの5thレッグが抑揚の激しいあの声で始まる。

「Phil Taylor throw first」

▼レッグ・フォー・ザ・タイトル。まさしくこれを獲ればマイクの勝利が決まるディシィジョン・レッグ。しかし、彼のダーツは微妙にズレ始める。

Phil Taylor 4-5 Mike Gregory
ptsleft 2-2 ptsleft
20,20,_5 45 456 3 60,20,60 140 361
60,60,60 180 276 6 20,20,20 60 301
60,15,_5 80 196 9 20,20,20 60 241
60,20,20 100 96 12 20,60,20 100 141
60,36 A 15      
      18      
43rd leg game Phil Taylor 14darts

▲これが前々年度度優勝者とファイナル初進出の差か、マイクのスコアは180を連発してきたそれまでとは別人のようにT20に嫌われる。フィルにとってももちろん大事なレッグ。苦しむマイクを尻目に少しずつ引き離した彼は96レフトをきっちり二本で決め天を仰いだ。

照れ笑いを抑えながらスローライン脇に戻るフィルにマイクは手を差し出し“ファイナル”に蘇った彼を称える。

「He's come back to the title」

▼軽く手を合わせた二人は悪夢の最終セットに入る。

Phil Taylor 5-5 Mike Gregory
ptsleft 0-0 ptsleft
15,20,60 95 406 3 60,20,20 100 401
60,20,60 140 266 6 60,20,60 140 261
_5,60,20 85 181 9 60,60,60 180 81
20,20,19 59 122 12 15,30,_0 45 36
      15 36 @
      18      
44th leg game Mike Gregory 13darts

▲プレッシャーが一旦抜けたのか、マイクのダーツが再びT20に戻り始めた。チャンピオンシップ26個目の180を出しフィルを一気に引き離すと、81レフトT15アレンジをはずすも13ダーツで最終セット最初のレッグを先取した。彼は軽く拳を振り上げる。

Phil Taylor 5-5 Mike Gregory
ptsleft 0-1 ptsleft
20,20,60 100 401 3 60,60,19 139 362
20,20,19 59 342 6 20,60,20 100 262
20,20,60 100 242 9 60,60,_0 120 142
20,20,20 60 182 12 20,20,60 100 42
20,20,60 100 82 15 _2,_0,20 22 20
50,_0,16 66 16 18 10,_5,20 B 20
_0,_0,_0 0 16 21 20 @
      24      
45th leg game Mike Gregory 19darts

▲マイクのポイントはすっかりT20を取り戻した。集り過ぎスリースロー目の三本目はT20二本目のテールに刺さるほど。逆に今度はフィルのダーツがズレはじめ、T20にどうしてもまとまらず、82レフトをブルでアレンジしても後が続かない。観客までが“こうやって投げるんだ”とばかりに立ち上がりスローイングを始めた。直後、マイクが一本目をW10に決める。マイクのウィニングポーズは徐々に大きくなってくる。その瞬間フィルは俯き、観客が静まるまでダーツを気にしている。
▼マイクの二度目のレッグ・フォー・ザ・タイトルが、彼のスローで始まる。

Phil Taylor 5-5 Mike Gregory
pts left 0-2 ptsleft
20,60,60 140 361 3 20,20,20 60 441
20,60,20 100 261 6 _1,_3,19 23 418
60,20,20 100 161 9 60,60,20 140 278
60,17,60 137 24 12 _3,20,20 43 235
24 @ 15 20,20,25 65 170
      18      
45th leg game Phil Taylor 13darts

▲マイクのダーツが再び微妙にズレ始めた。最後のプレッシャーが彼を襲っているのか、2スローでも418レフト。マイクが苦しむ中、フィルは少しずつリードを広げる。マイクはアウターで170レフトにアレンジするが、直後フィルはきっちり一本目をW12に決めレッグを取り戻した。
▼しかしまだマイクのレッグ・フォー・ザ・タイトルは続く。

Phil Taylor 5-5 Mike Gregory
pts left 1-2 pts left
20,60,60 140 361 3 _5,20,19 44 457
60,20,60 140 221 6 20,20,20 60 397
20,60,60 140 81 9 20,60,20 100 297
19,45,_1 65 16 12 20,20,20 60 237
16 @ 15      
      18      
46th leg game Phil Taylor 13darts

▲マイクの三度目のレッグ・フォー・ザ・タイトルがフィルのスローで始まった。相変わらずT20にまとめられないマイクとは対照的にフィルは140を繰り返す。マイクは3スロー目でやっとT20に入るほど苦しんでいる。81レフトのフィルはアレンジに少々手こずるが、マイクはその時点でも297レフト。フィルはふとスコアを横目で確認してから、三本目をシングル1へ入れる。T20の入らないマイクに、直後フィルは一本目をW8へ決めた。

勝負は完全にスクエアとなり、ルールがあらためて宣言される。
「Two Clear Leg」 と 「Sudden Death」
以降10thレッグまでは2レッグ差を付けたプレーヤーのセットとなる。そしてそれでも決まらない場合は、11thレッグはサドゥンデスで行われる。

▼フォー・ザ・タイトルではなくなった途端、マイクのダーツは徐々にT20に集まり始める。それまでのスコアシートを振り返っても明らかに違いが現れている。その違いにフィルが気づいているのか画面では知るよしもない。

Phil Taylor 5-5 Mike Gregory
pts left 2-2 pts left
20,60,20 100 401 3 20,20,20 60 441
60,20,20 100 301 6 20,60,60 140 301
20,20,19 59 242 9 60,20,20 100 201
60,20,60 140 102 12 20,60,20 100 101
20,_1,19 40 62 15 20,15,30 65 36
      18 _0,_0,36 B
      21      
47th leg game Mike Gregory 18darts

▲立場の並んだこのレッグ、スコアリングもすっかり横並びに減っていく。二人の敵はまさしくプレッシャーと思えてくる。
5thスロー102レフトのフィルが二本目のブルアレンジをはずすと、マイクはぎりぎり三本目にW18を決めた。フィニッシュに一際大きな雄たけび挙げるマイク。すれ違うフィルはくっと目を見開きボードを睨む。スローラインに立ったフィルの顔が少しきつく感じられる。この男、今頃やっと真剣になったかのような顔である。
▼そしてマイクの“四度目の正直”レッグが、フィルのスローで始まる。

Phil Taylor 5-5 Mike Gregory
pts left 2-3 pts left
20,15,60 95 406 3 60,60,20 140 361
20,20,60 100 306 6 20,20,60 100 261
20,57,19 96 210 9 20,20,60 100 161
20,20,60 100 110 12 20,20,60 100 61
60,10,20 90 20 15 45,_0,_8 53 8
10,_0,10 B 18      
      21      
48th leg game Phil Taylor 18darts

▲四度目のレッグ・フォー・ザ・タイトル、マイクは今までのそれとは異なり1スロー目から140を出し雄たけびを上げる。その差をフィルは縮めることができない。T20は一本ずつと寂しいが、マイクは確実にスコアを減らす。61レフトをT15でアレンジしタイトルフィニッシュはW8。しかし、ダーツは“タイトル”の左へ5ミリ、右へ5ミリと僅かにズレる。
それを見届けたフィルは三本目W5を決めなんとか生き返った。手を頭に当て苦笑いのフィル。二人のウィニングポーズはまったく対照的である。
(ん?…観客席脇の立ち見の列が映ると、そこには髭の大男が立っている。あれ?…もしやバドさん?…なワケ無いか。)
▼緊張から一旦開放された二人。フィニッシュは別にして、スコアリングはすっかり安定しはじめたマイクのスローでファイナル49番目のレッグが始まる。

Phil Taylor 5-5 Mike Gregory
pts left 3-3 pts left
20,60,60 140 361 3 20,20,60 100 401
20,60,_3 83 278 6 20,60,60 140 261
20,20,20 60 218 9 20,60,60 140 121
      12 60,33,28 B
      15      
49th leg game Mike Gregory 12darts

▲1スロー目はフィルがリードするも、140を連発し逆転リード広げるマイク。マイクの4thスロー、121オフW14をあっさり決め彼は再び雄たけびを上げた。

▼ファイナル50番目のレッグ、そしてマイクの5度目のレッグ・フォー・ザ・タイトルがフィルのスローで始まる。スローラインで何かを呟いているのか、フィルの口元が動いて見えた。

Phil Taylor 5-5 Mike Gregory
pts left 3-4 pts left
20,20,60 100 401 3 20,20,60 100 401
_5,60,57 122 279 6 20,20,60 100 301
20,20,20 60 219 9 60,20,57 137 164
60,60,60 180 39 12 20,20,20 60 104
_7,32 A 15      
      18      
50th leg game Phil Taylor 14darts

▲スコアリングもフィニッシュも照準が合い始めたマイクにフィルもなんとか食らいついている。マイクは3rdスロー2本投げ221レフトをT19で164レフトにアレンジした。直後フィルは180を出し39レフト。マイクは一本目のT20をはずし164フィニッシュを逃す。直後フィルはS7W16をさくっと決める。

再び生き返った彼はぐるっと遠回りに戻りマイクと顔を合わそうとしない。客席と何かを話すフィル。グラスの飲み物を飲み干すマイク。再度レゴレゴに並んだ二人。

▼マイクのスローで始まるレッグは51thレッグ。140のマイクにフィルは180を返す。T20に入るが僅かのズレにスタンスを変えるマイクは100。フィルは140でさらに引き離す。

Phil Taylor 5-5 Mike Gregory
pts left 4-4 pts left
60,60,60 180 321 3 20,60,60 140 361
60,20,60 140 181 6 20,60,20 100 261
60,20,19 99 82 9 60,20,20 100 161
15,17,25 57 25 12 20,60,15 95 66
      15 30,36 A
      18      
51st leg game Mike Gregory 14darts

▲フィル4thスロー、82レフトをブルで32レフトにアレンジするがS15に大きく外れる。S17でブルフィニッシュを狙うが惜しくもアウター、フィルは天井を見上げた。直後のマイクは66レフト、T10をしっかり入れ得意のW18で雄たけびを上げた。6度目のリーチをかけられたその瞬間、フィルが笑っている。

▼その笑みを消し、マイクにとって6度目のレッグ・フォー・ザ・タイトルをフィルが始める。

Phil Taylor 5-5 Mike Gregory
pts left 4-5 pts left
20,20,20 60 441 3 60,20,_3 83 418
_5,_1,20 26 415 6 60,20,20 100 318
20,20,60 100 315 9 20,20,60 100 218
60,20,20 100 215 12 60,60,18 138 80
60,20,19 99 116 15 20,20,_0 40 40
20,20,60 100 16 18 20,_0,_0 20 20
16 @ 21      
      24      
52nd leg game Phil Taylor 19darts

▲2thスローで26とつまづくフィルをマイクが少しずつ引き離す。フィルはT20が一本しか決まらずリカバーできない。だがマイクの5thスロー、またプレッシャーを押しのけられないのか80レフトが決められない。直後のフィル、116レフトを二本ともT20に入れられず16を残した。ボードに歩みよるフィルの顔が、負けを覚悟したのか一瞬歪む。しかし、マイクはまたも決められない。大きなリアクションで悔しがるマイク。直後にW8を決めたフィルの顔は淡々としている。

二人がたどり着いた究極のレゴレゴ。サドゥンデスの最後の1レッグにむけ、あらためてミドルが行われた。
「for the bull Mike Gregory throw first」のアナウンス。

マイクが25、フィルも25でアゲイン。続くフィルがアウターの外へ1センチほど外すと、マイクは赤いブルのさらにど真ん中に投げ込んだ。

▼マイクにとって7度目のレッグ・フォー・ザ・タイトル、そしてフィルにとって最初で最後のレッグ・フォー・ザ・タイトルが、マイクのスローで始まる。1スロー目3本目、マイクのダーツは不運にもはじかれる。

Phil Taylor 5-5 Mike Gregory
pts left 5-5 pts left
20,60,60 140 361 3 20,60,_0 80 421
60,20,60 140 221 6 60,20,57 137 284
_5,60,60 125 96 9 20,20,57 97 187
20,20,16 56 40 12 20,60,_3 83 104
40 @ 15 20,20,20 60 44
      18      
53rd leg game Phil Taylor 13darts

▲フィルは限りなく180に近い140でリードする。2ndスロー、マイクは二本目の傾いたダーツを避けT19にシフト。フィルはまたも三本を完全にまとめ140で引き離す。マイク、T20を大きく外れるダーツに再びT19でリカバーするが、直後のフィルはS5に外してもT20二本ですかさずリカバー。マイク4thスロー、二本投げた107レフトでは狙いの定まっているT19へ再度シフトするが、S3へ大きくズレてしまう。
直後フィル初めての2ダーツ・フォー・ザ・タイトル、二本中一本でもT20に入ればトライできるが僅かにズレ結局S16で40レフト。
104レフトのマイクも、三本とも5ミリほど上ずりトライできない。その直後、11thセット11thレッグ、フィル・テイラーのWトップ・フォー・ザ・タイトルが決まる。

トータルにして53thレッグは、フィル・テイラーの最初で最後のディシジョンレッグ。たった一度のチャンスを決めたフィルが優勝した。



それにしても…、
勝ち方負け方色々あれど、負けなかったフィルと勝てなかったマイクがまったくもって対照的である。これほど惜しい負け方もなさそうだが、後のフィルの活躍を考えれば、初のファイナルでこれほどの死闘を見せたマイクもある意味凄いプレーヤーと言える。

結局のところ、決めなきゃいけないとこで決める男が勝ったといえそうだが、ある意味マイクがどうしても勝てなかった試合とも言えそうである。この二人、本当は一体どっちが強かったのか、いまいちはっきりしない。まぁ一応フィルということなのだが…。

表彰式でのひとコマ、フィルは手にしたカップのフタをはずし、おどけて頭にのせ笑っている。この史上最強オヤジ、結構可愛いとこがある。意外と童顔だし。


ところで…、
果てしない試合をネタにしてしまったため、何とも果てしない記事になってしまった。あしからず。

実際この記事、判らない人にとってはコメントでいくら説明しても訳判らないモノだろうし、判る人にとってはコメントがさぞ鬱陶しい記事なのだろう。

必要とあらば印刷した上、コメント部分を容赦なく切り落とすことをオススメする。
posted at 2005/05/30 02:08 | Comment(0) | TrackBack(0) | 発掘回顧
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