雲と雨と風と

2012年12月10日
 投げかけた問いに応えはなかった。

 何度も何度も投げかけた問いに応えはなく、それまでの無力感がどっと押し寄せ、あぁもうだめだと、私は別れも告げずに黙って地下鉄の降り口へと歩き出す。十数時間ぶりの沈黙を味わっていると、背中に誰かが問いかける。私は聞こえない振りをして黙って地下鉄の改札へと降りていった。

 相手の問いに応えぬ者の問いにどうして応えられようか。
 
 
 どうしてあれほど一生懸命持論を押し付けるのだろう。

 ふと言葉を振り返る。

 ――そんなこと云っても無理ですよ。世の中そういうもんなんです。あななたちの云ってる事は理想にしか過ぎないでしょ。

 そう断言していた。いやそんな風には云わなかったけれど、そんな風に叫んでいたのだと想う。そんな風な事を、そんな風な口調で、そんな風に心の中では……。

 言い返せなかった。持論をぶつけられてうまく返せない。だからその濁った雲のような彼の吐き出した雰囲気だけを持ち帰る。その掴み処のない雲が、その日は部屋を漂っていた。
 けれどふと振り返って考えていると、まるで雨雲を吐き出した誰かの涙のように、部屋の中でざーざーと雨が降っている。濁った雲は泣いていた。珍しく乾いた目で、私はその雨を眺めて考える。


 本当はそう想っていた者が、かつてはしっかりとそう想っていた者が、口の達者なつわもの達にさんざん反論され、持論をけなされ、笑われ、罵倒され、そして言いくるめられて、言葉足らず故にもすっかり論破されて、そんな事を何度もも何度も経験したその果てに、やはりそうなのかもしれないな…とすっかり自信をなくし、かつて一生懸命持論をぶつけたはずの相手が云っていた風に想いは変わってしまっていき、誰かが語っていた風に志までが転じ、そしてその想いを今度は彼らが語っていた風に、彼らが力説していた風に、彼らが叫んでいた風に。風向きがすっかり彼らの風に流されてしまったのだろう。

 あのテーブルで、目の前で同じ単語を使って交互にああだこうだと語り合う意見の異なる二人の姿を見ながら、つい先日まで、“言葉は無力だ”なんて想うなよと嘆いていた自分が、言葉の無力感にすっかりさいなまれていた。
 あぁ今この二人は同じ単語を、同じ言葉を使っていながら、すでにその言葉の意味さえ異なった使い方をしている…と。
 バベルではないけれど、人が三人いるだけで三つの言葉が交わされているのかも知れないなどと、漠然とした無力感だか途方も無い孤独感に数百年分の寂しさを覚える。

 言葉足らずの者を論破できなかった己の言葉足らずな語彙が恨めしい。どうしてもっと言葉を駆使していい負かしてやれなかったのだろうかと悔やむ。


 彼はきっと、すっかり元の姿を失った持論を完全に言い負かしてもらえるまで、どこかで聞いた風な言葉を使って叫び続けるのだろうと想った。もう何処かへ消えて流れてしまった持論を、いつか取り戻せるまで。風が完全に己の中から吹き出すように向きを変えるまで。

 部屋の中で降っていた雨はもうすっかり止んでいけれど、彼はいつまで雨雲の下を歩みつづけるのだろう。
posted at 2012/12/10 11:55 | Comment(9) | TrackBack(0) | 雑題雑想
この記事へのコメント
本気で怒りました。
貴方に沈黙は似合わない。
Posted by なし at 2012年12月10日 12:48
ま、怒ってるくらいなら心配はねぇな。放っとこ…(;ーー)
Posted by 映太郎 at 2012年12月10日 20:10
貴方驚くほど感受性も読解力も無いですね。
Mさんに謝った方がいいですよ。

他人に針でプスリとするのが趣味のくせに、小心者だから思い切りでかい畳針では嫌われるのが怖いから刺せない。
そのうえ自分は傷つきたくないから、返り討ちに会う前に「あなたのためだから」と先手を売っておく周到さ。
何か言われたら「あなたの言葉をそっくりそのまま返してます」といって全て跳ね返し、論破論破と言って詭弁を繰り出し得意がってる。

貴方の心の壁は厚すぎます。
もう付き合い切れません。
いちいち自分が嫌われるのを気にして記事を消すなら批評ブログなんか消しちまえと。
思うわけです。

貴方、人の思考をコピーするなら表面ばっか真似してないで全部コピーしてくださいよ。
見ててとても、残念でした。
Posted by 貴方のプライドより何もかもが低い人(これで満足ですか?) at 2012年12月11日 01:37
元気で安心。放っとこ^^
Posted by 映太郎 at 2012年12月11日 01:41
貴方のプライドより何もかもが低い人(これで満足ですか?)さん、以降はメールで願う。

メールでも伝わるのに、メールを使わずあえてというなら、それはそのメッセージにメールでは存在しない他の目的があると、受け止めざるを得ないので。

それとも渋谷辺りでも席でも用意しようか?
晩飯くらいはおごるよ。たっぷり話ができるしさ。

内容と、気分と、感情と、体裁と、すべて区別してるからさ、な、頼むよ^^
Posted by 映太郎 at 2012年12月11日 04:48
メールでは一番大事な用は足せない。
それ以外のツールも今はA様の言葉もあるから使えない(もっとも、使わない意思を継続しているのは私自身ですが)。
あの人、あの人たちも見ているでしょう。
だからここを使っているんです。

そこは、どうやら気がついているようですね。
人に枷をはめておいて自分だけ自由にしゃべろうなんて、ずいぶん卑怯じゃないですか。^^

だから、私は嫌です。
自分の欲求を素直に認めればいいのに。
人をドライブさせるとか、誰かを救いたいなんていう後付の二次感情、美しい建前なんていらないです。
もっとどす黒い、自分を中心とした一次感情を見せてください。

まあもう見えていますがね。

いつかどこかで言った「パンチが足りない」が、ダブルミーニングだと、いつ気がついてくれるのかなと。
Posted by 人 at 2012年12月11日 18:32
君の想定している誰かの前で公然と議論したいならみなを集めるよ。

私のブログは私の息子が詠むことを想定して存在しているんだよ。私の恋人も、私の家族も、私の知らない私の知り合いもね。

その人たちにも詠ませることを前提としているならここでもよいし、そうでないなら君の想定している方々を読んでリアルで異論すべきだと思う。

その差異は想定しているのかい?
Posted by 映太郎 at 2012年12月12日 01:07
このブログは我が息子への遺言なんだよ。

父の恥を晒したくないわけじゃないし、隠す気もないが、無用に汚したくはない。ただそれだけだ。

君が汚しているといってるわけはないことだけは理解して欲しい。
Posted by 映太郎 at 2012年12月12日 01:12
返答は次回の会で。
Posted by 映太郎 at 2012年12月12日 01:43
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