小川 洋子著『密やかな結晶』

2012年11月09日
 2012年11月9日、こんな本を読んだ。

小川 洋子著『密やかな結晶』/講談社/講談社文庫/AMAZON



 
  密やかな結晶

 小川 洋子著
 講談社/講談社文庫
 
 記憶狩りによって消滅が静かにすすむ島の生活。人は何をなくしたのかさえ思い出せない。何かをなくした小説ばかり書いているわたしも、言葉を、自分自身を確実に失っていった。有機物であることの人間の哀しみを澄んだまなざしで見つめ、現代の消滅、空無への願望を、美しく危険な情況の中で描く傑作長編。(作品紹介)


 何かが消えてゆく日々が淡々と描かれていく。あまりに淡々とした描き方に、正直少々読み進むペースも鈍り、一向に読み終えない。〜ん、重い。
 


 いつかは読んでおかなければと思う書籍、いつかは観ておかなければと思う映画など、妙な己の義務感に何処か恐れおののき、手が出ない作品というのがいくつかある。
 作品の程度や重さも様々なのだが、時々ふっと思い立ち、半ば何処ぞの寺から飛び降りる気分で手に入れてその作品を享受する。

 読み終えるなり観終えるなりして、なんだぁ、気構えるほどでもなかったなぁという印象もあれば、うぅぅ、あぁぁ、と恐れていた以上に重く、その世界に足を踏み入れてしまったことは後悔しなくとも、唸って悶えて日常に戻るという作品も中にはある。
 たとえば映画『シンドラーのリスト』などは、いつかは観なければとは思いつつも、DVDのショップで毎度毎度まだいいまだいいなどと、弱気にも逃げつづけている。

 この作品―つまりは小川洋子氏の『密やかな結晶』―を読み終え、やはり勇気を出して手に入れるかなぁと、重い気分を少し持ち上げる気になった。彼女はたぶんこれからもあの収容所の世界観を描き続けるだろう。あの当時のドイツの状況をあらゆる世界に置き換えて作品化していくだろうと思う。彼女の作品を読み続けながらも、それを逃げ続けるのもできないことではないのだろうが、何処かそれはしてはいけないような気もしはじめて、そろそろ彼女の連れていこうとするその世界に、自ら近づかなければと思う。

 特に、あの当時のドイツ人と最も似通った民族を自覚し、そしてあの当時のドイツと最も似通った時代を通過していきつつある日本の今の状況を考えると、まだいいまだいいなどと云って逃げている暇もないのではないかと、ふと恐ろしくなる。

 だから、小川洋子氏の作品に満足したからこそ、彼女の次の作品を開くのではなく、あえて『シンドラーのリスト』やアンネ・フランクの『アンネの日記』を開く時なのかなぁと、小川洋子氏に感謝をしつつ改めて自戒する。

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posted at 2012/11/09 17:21 | Comment(0) | TrackBack(0) | 書籍批評
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