悔いと粋な計らいの着床場所

2005年04月02日
「異例」といった言葉が踊るニュースというもの、時に大きな喝采を浴び、時に激しい反感を買うことがある。受け取る側の反応も報道それぞれ人それぞれ様々だが、異例なものほど異例な反応になりがちである。

<温情保釈>
最高裁、大麻で逮捕の受験生に異例の決定
 大麻取締法違反で逮捕・起訴され、大学入試を理由に保釈を求めていた東京都内の男性被告(20)に対し、最高裁第2小法廷(滝井繁男裁判長)が先月、訴えを退けた東京地裁決定を取り消し、保釈を許可する決定を出していたことが分かった。

ふと目にした何気ない報道記事の前で、私の涙腺は異例な反応を示した。自分の涙腺が過敏なことは十分自覚していたつもりなのに、若者の一つの過ちとその後の記事になぜだかわからないまま涙がこぼれた。
 
身内の葬儀出席などのため保釈許可が出ることはあるが、受験を理由にしたものは極めて異例で、男性は保釈の翌日、無事“本命”の美術系大学を受験した。不合格だったものの「悔いが残らなくて良かった」と笑顔を見せているという。

悔いは確かにそこに存在するはずなのに、悔いは残らなかったと語る若者の言葉が興味深い。それは事実が許され悔やまなかったわけでも芽生えたばかりの悔いが消え去ったわけでもなく、悔いというものが何か別の形に昇華したからではないかと思えてくる。

人が罪を犯すと、その体内の奥底には悔いというものが着床し人知れず鼓動を刻みはじめる。時と共に静かに成長しその人の内側から徐々に存在を主張しはじめ、年月と共に成長してやがて人を苦しめるようになる。
生理学的な妊娠期間のように均一ではない期間を経た後に、人生の節目と呼ばれるような大きな儀式を突然人に求め、別の姿を得てその人の大事な過去となる場合もあれば、その別の形を拒み姿を現すことを避けるように内面に潜み続け、その人を死に至らしめることもある。
姿を得て共に成長したとしてもその人を苦しめ続ける存在となることもあれば、ごく稀にその場所にまったく着床しようとせず、その結果人は着床の前段階行為を何度も繰り返すこともあるだろう。

事実の後に体内に着床したものは、その人により様々な形に成長していく。

 第2小法廷は▽逮捕当初から容疑を認めている▽前科がない▽家族と同居している――などの事実を指摘。そのうえで「大学入試が目前に迫っていることも考慮すると、保釈請求を退けた地裁決定は、取り消さなければ著しく正義に反する」と結論付けた。
 検察側は「保釈すると、共犯者の友人に働き掛け、証拠を隠滅する恐れがある」と保釈に反対していた。
 保釈保証金の150万円を納付して保釈された翌日、男性は第一志望の大学を受験した。その後開かれた法廷では「興味本位でやってしまい、反省しています。不合格だったが、もう1年頑張ります」と話した。東京地裁は3月25日、男性に懲役8月、執行猶予3年(求刑・懲役8月)を言い渡した。

裁判官が裁定を再び考慮しなおし二度目の決定を下すまでの間、そのテーブルの上には二つの悔いがあったはずである。一人の若者の、確かにそこに存在しすでに悔やみきれないものとなった悔いと、かならずや悔やむだろうがまだ形をなさない大きな悔い。

その時系列上に前後する二つの悔いが、重厚なテーブルの上の大きな天秤にかけられた結果を考慮した裁定だと思った。

冷たい大理石に覆われた四角四面で無機質で機械的で体温のまったく感じられないように思われたその場所の四角い建物の中の四角いテーブルの上にも、粋な計らいというものが着床しうることを知った報道である。
posted at 2005/04/02 21:06 | Comment(0) | TrackBack(0) | 報道批評
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