風の宿は何処

2012年04月22日
 30年来の友と会った。
「ジャマイカ、風の宿の雰囲気でもう一杯飲まないか?」
 居酒屋でひとしきり盛り上がった後、ヒデキは嬉しそうに私にそう云い、私を寂れたと或るBARにいざなう。

bar_StarDust.jpg
BAR STAR DUST

 初めてなのに懐かしい。
 妙に落ち着き、なぜかやたらに懐かしいのは、あの地あの宿のあの、幾晩も幾晩も酒を飲み交わしたあのカウンターに似ているからかもしれない。
 彼の地稚内にあったカウンターはもうそこにはない。風の宿かわばたがもうそこにはないのだから。
 
「そこはもう何んにもなくてさ、ただ朽ち果てた丸太が目印に転がっているだけなんだよ」
 何十年か後にその地を訪れたというヒデキは寂しげに語った。彼と初めて出会ったのが北海道稚内の風の宿かわばただった。

 同窓の友でもなく、仕事の同僚でもなく、たまたま郷里は同じ東京ではあったけれど、東京で普通の生活をしていたら一生知り合えなかっただろう友。その声に、その笑顔に、32年前の夏の日々が蘇る。

 あの夏、何度でも何度でも、年を経ても結婚しても、自分はまたここに戻ってくると心に決めて、高校生だった私は見送りの仲間を駅に残し、帰りの夜行列車の中で泣いた。あれはたしか1980年の夏のことだった。 


 風の宿で知り合った者同士は、それぞれが旅を終え、それぞれの世界に戻った後にも何かにつけ理由をこしらえてはよく集まったものだった。
 誰彼が東京に出てくるらしいよといっては出迎えて集まり、誰彼が大阪に出張するからと大阪のメンバーがまた出迎え集まるといった風に。時には風の仲間のライブがあるからと、ライブハウスに集合したこともあった。

 渋谷公園通りのEGGMAN、新宿歌舞伎町のクスクス、渋谷道玄坂のBYG、それらの店々もまた、風の仲間で集まった途端に私にとってはもう一つの風の宿となった。

 でもそれぞれが結婚し、仕事も忙しくなり、そして家族が増え、やがてはそれぞれはみなそれぞれの世界が複雑になり、集まることも少なくなった。

 想い出は徐々に小さくなり、いつのまにかあれほど大切だったはずの想い出が仕舞われた引き出しもあまり開けなくなる。けれど、その想い出がなくなるわけではない。大切に思えば思うほどに人はその宝石を心の奥底に仕舞い、皮肉にもあまり触れなくなっていく。


 私とヒデキ、風の仲間がまた二人揃ったから、そこもまたもう一つの風の宿。ふむ、結局の処、風の宿は一体何処にあるのか。


 スタッフだった赤シャツが私にくれた言葉がふと再び蘇る。

  山また山と出会わず
   人また人と出会う


 だからねすがと
 風の宿は何処にでもあるんだよ
 ここで私が風の宿の想い出を記せばここもまた風の宿
 どこかまた新たな店でまた風の宿の仲間が揃えばそこもまた風の宿

 だよね、おにいちゃん
posted at 2012/04/22 13:34 | Comment(2) | TrackBack(0) | 雑題雑想
この記事へのコメント
昨日は楽しいひと時でした。ありがとうございました。風の宿かわばたのブログを立ち上げましたのでよろしくお願いします。
Posted by スガト at 2012年06月09日 11:49
おかえり、スガト

 友来レバ此処モマタ風ノ宿ト成リ

ただいま、スガト

 我行ケバ其処モマタ風ノ宿ト成リ

だよね、ヒデキ

 皆集エバ其処此処其レマタ風ノ宿ト成ル

でしょ
Posted by ジャマイカこと映太郎 at 2012年06月10日 17:12
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