断髪式への道すがら道すがら

2006年04月08日
 あれは確か若者で賑わう“丘ジュー”に出掛けた時のこと。

 或る意味丘ジューきっての老舗スーパー“自由が丘ピーコック”前でバスを降り、丘ジューきっての渋滞通りをタクシーの隙間をぬって渡る。ちっとは花屋らしくなった花屋の店先を踏み切りの方へ抜け、全然モスらしくないモスの前で信号を無視し、再び反対向きのバス停の前に差し掛かった辺りで、ふと子供同士の妙な会話が耳についた。

 子供…「ねぇ…、今十万円あったら何に使う?」

 10歳ほどの女の子が誰かに、きっと同じ年頃の友達になのだろう、質問を投げかけた瞬間だったらしい。

 回答者の子供の声は聞こえなかったが、その子供っぽい声と話し方にはあまりに現実的な“とっぴな質問”の内容に、耳がロバのように広がってしまった。

 おいおい、そりゃまた随分と現実的な話だなぁ…、ぇえ?
 


 厳密に記憶しているわけではないけれど、子供の頃にはそんな子供らしい“想定問答”をよく投げ掛けあったものである。

「なぁ、お前さぁ…、十億あったらどうする?」とか、「お前が勝ったら百億やるよ!」とか。

 どうせ想像もできないような状況を想定した、お決まりの有り得ない質問や賭けである。そんな会話に登場する設定金額というのは、大抵すぐには想像できないような金額だった記憶がある。

 だが、前述した少女の場合は若干異なっていたらしい。彼女の想像力は乏しいのか、いやそれとも…。

 どう考えても、彼女の想像力が十万円以下だったとは思えない。あまりに現実的な金額が頭に浮かぶほど実際それは想像力に満ちていると考える方が自然である。

 そんなこんなを考えていたら、美容院へと向かう歩みは不意に鈍り、いつしか自分がそんな質問の答えを現実的に考えていた。

 「…、(十万円ねぇ、そりゃ十万円あったらさぁ、デジカメ買うか、いやそれともお手頃なPCでも買うか、いやいや待てよ、まずは払うべきモノを払うべき所にか、だろうなぁ…)、…。」

 あぁぁ、いやだね、まったく。現実的な想像しか浮かばんよ。

 それにしても、想像力を掻き立てるはずの“トッピな質問”がそんな想定なんて。想像力が乏しいというのも、或る意味それは想像できないにほど寂しい。



 かく云う自分自身、その歩みの先に待っていたのは現実的な断髪式だった。
 先日決まった新たな職場で、かなり伸びてしまった後ろ髪やデンスケ髭が、若干好ましくないと云われてしまったからである。

 まぁそれが現実だからと、自分でもあまりにあっさりと決めたことなのに、ふと耳にした子供達の非現実的に超現実的な会話が、私の現実的な状況を改めて現実的に考えさせる。

 ありもしない臨時収入の十万円とか、自分自身の拘りのスタイルとか、そんなモンよかよほど現実的な問題がこちとら問題なのだ。十万円なんて想像してられんよ。

 一年半ぶりに訪れた髪結い処のマスターは、私の伸びた髪を見て呟いた。

髪結い…「いやぁ、まぁ、また随分と伸びたモンだねぇ…。」
映太郎…「だぁねぇ…。」

髪結い…「で、ばっさり切っちゃうの? いいの?」
映太郎…「まぁねぇ…。」

 一旦シャンプー台に座ったものの、後ろ髪を洗わなくてよいことに気付いたマスターは40センチ程に伸びた髪を輪ゴムで束ね、遠慮がちにジャキジャキと切り落とす。

髪結い…「で、最後に切ったのって、いつだっけ?」
映太郎…「もう一年半くらい前かなぁ…。」
髪結い…「そんなになるかぁ…。」

 開店当初から世話になってる割に滅多に顔を出さない客である。会話は甚だばつの悪い方向へ進みかける。

映太郎…「ってかさぁ、俺ってホント、酷い客だよね。」
髪結い…「まぁ来てくれるんだからいいんだけどね。」

 その長さの髪を見れば、どこの髪結いにも行かなかったことは伝わったはずである。



 ふとその髪結いが独立開業した頃のことを思い出した。

映太郎…「で、ここって開店してからどのくらい経ったの?」

 考えてみれば私が高校生の頃より、彼は私の髪を切り続けている。

髪結い…「来年で20年だったかな…。」

 そうか、俺もこの店で20年も髪を切って貰ってたんだな。彼が独立する前、まだ別の店に勤めていた頃に兄に紹介され彼のハサミ捌きを試しに行ったのはさらにその数年前のこと。

 ふむ、私がふと現実的になって断髪する度、彼はその儀式に立ち会ってくれていたわけだ。確か、私が店を畳んで現実に戻った時も、彼が断髪のハサミを入れてくれた。

 来年20周年を迎えるというその髪結いは、自分自身もたった今気がついたという顔で笑って続けた。

髪結い…「あんまそういうこと考えないんだよね。」

 考えなかったはずはあるまい。でも、考えなかったという言葉も納得できる。

 もう少し頻繁に通ってあげることとしよう。当分の間は現実的にならなくてはいかんことに変わりはないのだし。
posted at 2006/04/08 00:09 | Comment(2) | TrackBack(0) | 雑題雑想
この記事へのコメント
うひょ〜。長い髪の毛ですね〜40cm?
私そこまで伸ばしたこと大人になってから無いかも?(苦笑)

しかし…10万あったら・・・やっぱ答えは現実的なこと考えますね。

んでも、宝くじ買い漁るとか(爆)思い切って打ってみようかしらん?突飛な数値にならんかな?なんか、違うー!

Posted by KaN at 2006年04月08日 01:14
KaNさん、毎度です!

泡銭は泡銭…、
とはいえ、その泡銭でさらなる泡銭を期待する?

あなたって人は、
ねっからのギャンブラーなんでしょうか。

どうせなら、
デジカメ買いあさるってとこが現実的な選択かと思われ…。やっぱダメだね、そっから離れられん。
Posted by 映太郎 at 2006年04月08日 02:48
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