写真には写らない被写体の声

2004年12月23日
白黒写真の中に横たわる遺体には、上半身がなかった。下半身だけの一人の遺体は何も言わない。鳥がついばんでしまったのか、上半身は骨だけとなっていた。

別の写真には、何十人という遺体がその場を埋め尽くし、目を覆いたくなる光景が写っていた。写真の中の彼らも何も言わず横たわっている。

写真家は小学校の教室に、楽しそうにそれらの写真を並べていく。光の加減のせいか、少しモノトーン気味な教室に並ぶ写真は、モノクロのコントラストがわずかにきつく見える。楽しそうに見えた。何かを期待するように。

子供達が入ってきた。
彼らはその写真を真剣に見ている。
写真家は嬉しそうだった。私にはそう見えた。

「子供にそんな写真を見せるなんて・・・」
 
私はそうは思わない。

 −・−・−・−・−・−

課外授業ようこそ先輩
先輩先生=写真家長倉洋海
「みんなの笑顔が平和のかけ橋」

配られたデジカメを手にする生徒たちは、素材の顔を求めて街に出向く。テーマは笑顔。しかし緊張した“ちびっ子カメラマン”が撮影を願い出た被写体たちは、その緊張を感じたのか笑ってくれない。
(NHK総合2004/12/21再放送)

遺体の写真は、その番組の冒頭シーンで登場する。

彼の想いとは裏腹の印象を訴える人もいるだろうと思った。

「そんな惨い写真を、
 幼い子供に見せるなんて
 一体何を考えているのですか?」…と。

何十人もの遺体が写る写真の横で、写真家は子供に説明を始める。

「遺体を前にしてね、
 カメラを向けるのを
 躊躇ってしまったんだ。
 
 だけどね、
 そこにいた女性が言ったんだよ。

 『これを撮れ!そして伝えてくれっ!』ってね。」

子供の顔から笑みが消えていく。遺体たちの無言のメッセージが聞こえたのかも知れない。

悲惨な写真を見せた後、写真家は一枚の少女の写真を見せる。そんな状況でも屈託のない笑顔を見せる少女の顔にシャッターを押したという。

その写真を見せ、写真家は子供に問う。

「どっちの写真がいい?」
と、尋ねる写真家に、

「やっぱり笑顔の写真がいい」
と、笑いながら言う子もいれば、

「戦争の残酷さもみんなに見せて
伝えなきゃいけないと思う」
と、真剣な表情で言った子もいた。

真剣な表情でそう言った子が一人でも居たのだから、その目を背けたくなる写真にも価値があったわけだ。

写真家もその言葉が聞きたかったのだろう。

 −・−・−・−・−・−

先日見かけた報道トピックスには、写真と被写体と鑑賞者の関係において、同様の記事があった。しかしこちらは微妙な問題をはらんでいた。

どこかの自動車免許教習所では、交通事故犠牲者の遺体が写る写真を卒業生に見せていたことが問題になったという。なんでも遺族の了承を得ていなかったらしい。

遺族の了承を得ていなければ、いたしかたないだろう。

しかし、子供達の見た被写体たちの遺族があの教室の風景を見たとしたらどう思うだろうか。

 −・−・−・−・−・−

写真家も、教習所の教官も、見て欲しかったモノは同じだと思う。

写真に何が写っているかは問題ではない。
その写真の背景にあるモノ、“写っていない何か”が見えるかどうか。

見て欲しい人の目にそれがどう映るか、
それが問題だと思うのだが。
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posted at 2004/12/23 01:58 | Comment(2) | TrackBack(0) | 放送批評
この記事へのコメント
写真にしても、文章にしても、絵にしても、写ってない、書かれていない、描かれていない…ものを読み取るのが感性とでもいうのでしょうか?

何を感じるのか?

そういうことで、見るという行為をすることもあります。ただただ見て流したい時もありますけど。

どこぞのサイトでは、人質にされた人を殺害するそのものを流したり…という直視できないようなものもありますけど…。これもそういう一つの何かを見るものなのでしょうか?だとしたら、重すぎるな〜。
Posted by KAN at 2004年12月23日 13:44
>KANさん、こんにちわ!
どこぞのサイトとこの写真家の根本的な違いは、何なのでしょう。見せる者の意思なのでしょうか。

どこぞのサイトの映像を、かの写真家が手にしたとしたら、彼は子供たちや一般の人に見せるのでしょうか。

その映像を生み出した動機が、見た者の嫌悪を望んでのモノと知った上で見るとしたら、それは単なる興味本位の鑑賞だとしか言えないでしょう。

でも、そんな動機不純な人々の存在を知らない人がいると彼が知ったとしたら、その不純な動機を持つ人々の存在を知らしめるために彼は映像を公開すると思います。

だとしたら、
それはかなり重いことでしょうが、見るべきなのではないでしょうか。
Posted by 映toKANsan at 2004年12月23日 15:06
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