短編「レシート」

2009年12月05日
 こんなモノを書いてみた。

断片集― a few pieces of life ―「レシート」
  断片集
   ― a few pieces of life ―
 
 狩馬映太郎著
 デューイ書房/デューイ文庫
 ・レシート
 ・鳩時計の旅
 ・ぬくもり

 大型古書店で太宰治の古本を買った男は、巻末に挟まれた一枚のレシートを見つける。しかしそのレシートには意外な品名が並んでいた。「レシート」


 なんてね…。
 
 以下、短編「レシート」本編。
 

  レシート

 堀辰雄百円、川端康成百円、芥川龍之介百円。
 大型古書店が近所に開店してからというもの、枕元には百円本が並ぶ。
 一体いつからだろう。古書店の開店が先か、派遣切りが先かなどと考えつつ、本の山から今夜の一冊を手にとる。太宰治百円。


 ここ数か月、疲れが足らないせいか、眠気まで満たされていない。視界の端では、世間がしらじらしく明けていく。
 ふと、左手で残りの厚みを確かめつつ太宰を捲っていくと、巻末の辺りに何かが挟まっているのに気がついた。左手の指だけで感触を確かめる。しおりとは違う薄い手触り。またレシートか。
 他人のレシートには、人の生活を覗き見る楽しみがある。今までにも何度か、古本の中のレシートでニヤついたことはあったが。結末の後の結末にわくわくし、読み終えてここぞと捲ると、やはりそこにはカタカナが並ぶ一枚のレシートが挟まっていた。

 サケ、ツマミ、グラス――酒? 太宰は赤ら顔で笑った。
 ノート、チズ――地図? 太宰は旅に出た。
 レンタン――煉炭? 太宰が。
 私は、灯りを消した。


 翌日。午後。私は久し振りに車で出掛けた。
 今どきツマミから練炭まで売る店などあるのだろうか。何かの悪戯だろう。だが郊外の大型店ならあり得るか。悪戯を悪戯にすべく、私は太宰を伴い西へ向かった。
 大型店を片っ端から覗く。何でも揃うと豪語する店に何度も舌打ちし、いつしかレンタン、レンタンと口ずさみながらさらに西へ。彷徨った果てに、食品売り場と同じフロアで練炭を売る店を見つけた。
 買い物カゴにレシート通りの品物を入れ、レジ係にレシート通りに品物を渡し、受け取ったレシートを見比べる。このレシートを、あの本屋の太宰に挟んでやる。誰かがまた思い悩もうがどうでもよい。この悪戯だけが、その悪戯を悪戯にさせる。そうしたかった。

 久し振りの疲れを味わいながら夕暮れの国道を戻る。東へ折れる信号は赤だった。本屋の閉店にはもう間に合いそうもない。私は左折のウインカーを一旦戻し、FMのボリュームを上げた。U2のくどいリフが懐かしい。助手席の太宰を捲ると、巻頭写真の彼は私を覗き見、そしてニヤついた。――西へ?


 闇と光が、南の空で境い目なく妥協している。Bonoがやっと歌いだした。
 I want run――
 ――通りの名前なんて知るかよ。

 私は、私のレシートを私の太宰に挟み、その曖昧な境界線に沿って直進した。名も知らぬ国道を南へ。



 どうせ千文字、たったの千文字、たかだか千文字、されども千文字、とか何とか云っても千文字は千文字。何度トライしても千文字は短くて、難しいっす。

 ならば二千なら三千ならと云われかねないが、五千だろうと一万だろうと、たぶんたいして変わらないと思われ…。

 そんな千文字の短編ばかりの「サイト短編」はこちら。

  サイト短編→http://tanpen.jp/

 先の話は、そのサイトの第87期に投稿したお話。

 ここがまた厳しいんだな。ボロクソ云われるくらいならまだマシで、何も云われずスルーされるのが一番悲しい。

 まあ例え痛くとも凹もうとも、何かしら云われたくて投稿してるんだけどねぇ、北村さん。
posted at 2009/12/05 06:01 | Comment(0) | TrackBack(0) | 語部修行
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