父、母、兄、私と、家族四人がみな揃ってまったく疑い深い人間ばかりの家族である。オレオレ詐欺なんて間違っても引っかかる親ではない。それでも毎回必ず、面白い笑い話があるんだけといった雰囲気で報告してくるのだ。
で、今度はオレがどうなった?と母に尋ねると、それはそれ楽しそうに言ってのけた。
「あんたねぇ、品川駅で確保されたんだって!」
参ったなオレ…。品川駅で捕まったのか。
ふむ、品川駅? さては痴漢だな。どうやらオレは女子高生にでも痴漢働いてただ今取り調べ中なんてとこらしい。さて、今自宅にいるオレは一体どうすりゃいいのか。品川駅に電話でもして、そっちのオレを叱ればいいのか。
それにしても笑えるのは、オレオレ詐欺が掛かってきたとどこか喜んでいる母の楽しそうな口ぶりである。なにやら何かに当たったかのように、陽気にはしゃいで話していた。
なんだかなぁ…。まぁそんな手法に引っかかりそうもない親の疑い深さを喜ぶべきか、それとも、笑って報告とかいった雰囲気を醸し出しながら、実はしっかり確かめてる親の疑い深さを嘆くべきか。考えてみると、ちと怪しくも思えてくる。これも疑い深さの遺伝なのだろうか。
まぁ真剣に考えてみれば、もっとおぞましい状況まで思い浮かんでくる。
突然鳴る実家の電話。
「モシモシ。あのー、港湾警察ですが。お宅の息子さんがホニャララ埠頭で発見されまして、身元を確認して頂きたいのですが…」
「あら、また新たなオレオレ詐欺ね、まったく!」ガチャ。
すぐ近くに住んでいても縁遠い生活をしてる罰に、そのぐらいの扱いを受けそうな気がしてくる。仕方ないか。
ところで、そんな深刻な状況は冗談としても、オレオレ電話の仕掛け人とどこか喜びながら話す母の顔を想像してみると、ふとO・ヘンリのような皮肉なシチュエーションが想い浮かんできた。
まぁ母の場合は、喜ぶというよりしてやったりという顔なのだろうけれど、人によってはそうとも限らないはずである。
オレオレ詐欺の仕掛け人の声とて、それが音信不通の家族の名を偶然にも名乗り、一瞬でも優しく語り掛けてくれたとしたら、ほんの数分の会話が何か特別な想いを呼び起こしてしまうこともあるのではと思えてきたのだ。
信じてしまうからこそ、人はその罠に掛かり振り込んでしまう。そういう人がいるならば、一瞬でも一度は信じてしまい、例えそれが偽りだと一瞬後に判ったとしても、実はもっと信じていたいと想い続ける人も、中にはいるかも知れない。
オレオレと
亡子電話で
泣き甘え
知らぬが仏と
騙し騙され
ふとそんな状況を話にでもと思ったが、そんなお話など探せば山ほど出てきそうである。結局これ以上書く気になれなかった。31文字で十分であろう。